
手元に開発環境を持たずに、
プロダクトを作り切れるか
フルクラウドAI開発の現在地
最近、いくつかの個人開発を、ほぼ完全にスマホだけで進めている。
スマホでコードを書いているわけではない。むしろ、自分で書いたコードはほとんどない。
スマホからAIエージェントに指示を出し、クラウド上で実装してもらい、結果を確認し、必要なら修正を依頼する。
コードの編集だけでなく、動作確認やデバッグ、GitHubへの反映まで含めて、できるだけクラウド側に寄せている。
もともと、未来の開発スタイルを実験しようと思って始めたわけではなかった。
単純に、PCを開けなかった。
現在は育休中で、赤ちゃんを抱っこしている時間が長い。
両手を使ってPCを操作することが難しく、まとまった時間を取って机に向かうのも難しい。
もちろん、仕事に取り組む代わりに開発しているわけではない。
育休中の肉体的な制約のなかで、仕事とは切り離した趣味として、ただ何かを作りたいという欲求を満たしている。
そんな制約の中で試行錯誤していたら、気づけば「手元に開発環境を持たず、クラウド上のAIエージェントだけでプロダクトを作る」というスタイルになっていた。
この記事では、Google AI Studio、Claude Code on the web、Cursor Cloud Agents、ChatGPT、Grok botなどを使いながら、いくつかのプロダクトを実際に作ってみた所感と、その過程で見えてきたフルクラウドAI開発の現在地について書いてみる。
PCを使わず、いくつかのプロダクトを作った
まず、実際にどんなものを作ったのか。
su-css
一つ目は、su-css というCSSライブラリ。
最初はGoogle AI Studioを使い、その後Claude Code on the webへ移行した。
自分が書いたコードはゼロだった。

Google AI Studioは、モックアップを作る体験がかなり良かった。
とにかく簡単に形になるし、デバッグもしやすい。
一方で、こちらが求めていないことまで変更してしまうことがあり、プロダクトを継続的に育てる用途では少し扱いづらさを感じた。
GitHubと連携しながら継続的に開発するところまで考えると、体験としてもあと一歩だった。
生成されるアウトプットの品質についても、悪くはないが、もう少し欲しいという感覚があった。
そこで途中からClaude Code on the webへ移行した。
Claude Codeでは、スマホから指示を出すと、クラウド上で実装し、そのままWebページを立ち上げて確認してくれる。
さらに、自分で画面を確認し、スクリーンショットを撮って結果を返してくれる。
自分はそのスクリーンショットをスマホで確認する。
特に問題がなければ、そのままかなりラフにマージする。
GitHub Pagesにデプロイし、最後にスマホの実機で確認する。
実機で問題を見つけたら、スクリーンショットを撮ってClaudeに渡し、また直してもらう。
だいたいこのループで開発していた。
従来なら、
コードを書く。
localhostを起動する。
ブラウザを開く。
DevToolsを見る。
コードを直す。
またブラウザを見る。
という作業を自分がやっていた。

コードを書いて動かし、画面を見て、また直す。
この一周を、全部自分で回していた。
今回は、そのかなりの部分をエージェント側が担当している。
自分がやっているのは、成果物を見て「OK」か「違う」かを判断することだった。

指示を出すと、エージェント側では実装だけで終わらせない。
スペックテストを回し、デプロイし、コードレビューとセキュリティレビューまで、簡易的なループとして自分の外で回している。
手元に戻ってくるのはその結果で、自分は成果物を見て「OK」か「違う」かを判断する。
個人ブログの刷新
個人ブログの刷新も、Claude Code on the webだけで行った。
これも自分で書いたコードはゼロ。
Webサイトのように、クラウド上でそのままブラウザを開いて成果物を確認できるものは、AIエージェントとの相性がかなり良いと感じた。
エージェント自身が実装し、自分で確認し、その結果をスクリーンショットで共有してくれる。
人間側に必要なのは、ほぼレビューだけになる。
スマホゲーム
現在はスマホゲームも作っている。
このプロジェクトでは、さらにいくつかのサービスを試している。
企画についてはChatGPTを中心に進めた。
ClaudeやGeminiでも同じように企画を考えさせてみたが、自分の中ではChatGPTの回答が一番良かった。
開発については、Claude Code on the webとCursor Cloud Agentsを試した。
最初にClaudeで設計と実装を進めたが、ビジュアル面のアウトプットにはあまり満足できなかった。
そこで、途中からCursorにかなりの部分を作り直してもらった。
Cursorは、Webで確認できるものを作らせたときの体験がとても良い。
仮想デスクトップ上で、エージェント自身が画面を確認しながら作業を進めてくれる。
しかも、単に動くだけではなく、ビジュアル面のクオリティも高かった。
現時点では、Web上で確認できるプロダクトを作らせるなら、Cursorはかなり強いと感じている。
ただ、ゲームを作っているうちに、最初に選んだReact Nativeではなく、せっかくならゲームエンジンも使いたくなってきた。
そこで現在はGrok botも試している。
Grok botは、仮想デスクトップ上でかなり柔軟に作業できる。
ゲームエンジンのように、単純なブラウザだけでは完結しない開発環境との相性も良さそうだった。
さらに面白いのが、複数のBotをチームとして動かせること。
トークン消費はかなり激しい。
ただ、体験としては「AIにコードを書かせている」というより、自分が複数のメンバーを抱えたチームに指示を出している感覚に近い。
実装からレビューまでの簡易ループとは別に、Grokでは役割を切ってチームを組んでいる。
進行と製品の品質確認はディレクター。
デザインの品質確認はクリエイティブディレクター。
デザイン制作はデザイナー。

まだ使い始めたばかりだが、今のところかなり面白い。
いろいろ使いたいわけではない
ここまで読むと、AIサービスを用途ごとに使い分けることに価値を感じているように見えるかもしれない。
ただ、実際にはそうではない。
今は理想の環境を探すために複数のサービスを試しているだけで、最終的にはできるだけ一つのサービスに寄せたいと思っている。
複数サービスを使えば、それぞれの得意な部分を組み合わせられる。
一方で、継続的にプロダクトを開発することを考えると、サービス間を行き来するコストはかなり大きい。
コンテキストを引き継ぐ必要がある。
GitHubの状態を揃える必要がある。
認証方法も違う。
UIも違う。
料金体系も違う。
それぞれのサービス固有の使い方も覚える必要がある。
短期的には、その時々でベストなAIを組み合わせた方が高品質なものを作れるかもしれない。
ただ、持続可能な開発体験という意味では、一つの環境ですべて完結した方がいい。
自分が探しているのは、
フルクラウドで、手元に実行環境を持たずに、1つのプロダクトを開発し切れる環境
だ。
欲しいのはクラウドIDEではない
「クラウド開発環境」という言葉を聞くと、ブラウザ上でVS Codeが動くような環境を想像しがちだと思う。
ただ、自分が今欲しいものは少し違う。
ブラウザ上で自分がコードを書く環境が欲しいわけではない。
むしろ、自分はできるだけコードを書きたくない。
欲しいのは、エージェント自身が実行環境を持つことだ。
企画する。
設計する。
実装する。
実行する。
ブラウザで確認する。
デバッグする。
テストする。
セキュリティ観点でレビューする。
GitHubを操作する。
デプロイする。
ここまでをエージェント側で完結してほしい。
人間側は手元にコードをcloneしない。
npm install もしない。
IDEも開かない。
localhostも立ち上げない。
エージェントが自分自身で成果物を確認し、その結果を人間に見せる。
人間は方向性を決め、アウトプットを評価する。
これが、自分の考えるフルクラウドAI開発の理想形に近い。
個人開発では、コードを全く読まなくなった
今回の個人開発では、コードはほぼ全く読んでいない。
変更されたdiffを一行ずつ見てからマージする、ということもしていない。
確認するのは成果物だ。
欲しかった機能になっているか。
ちゃんと動くか。
ビジュアルに違和感がないか。
大きな品質上の問題がないか。
セキュリティについても、自分ですべてのコードを確認するのではなく、今回は確認自体をエージェントに委託した。
つまり、確認をしなくなったわけではない。
確認の方法が変わった。
自分でコードを読み、問題を探すのではなく、「この変更について、セキュリティ観点で問題がないか確認して」という仕事自体をエージェントに渡す。
そして、その結果も含めて最終的なアウトプットを判断する。
これは個人的にはかなり大きな変化だった。
コードを読まないのは怖くないのか
個人開発に関しては、今のところそれほど怖さは感じていない。
ただし、条件がある。
最悪、スクラップアンドビルドできること。
新しく作った小さなプロダクトで、問題があれば捨てて作り直せる。
このくらいの範囲なら、AIが内部でどのようなコードを書いたかを完全に理解していなくても、そこまで怖くない。
一方で、業務のコードは同じようには扱っていない。
最終的な品質責任を自分が担っているプロダクトでは、大枠の確認を行う。
特に怖さを感じるのは、長い歴史が積み上がったコードベースだ。
古いシステム。
複雑な依存関係。
ドキュメントに書かれていない暗黙知。
本番環境固有の挙動。
開発環境と本番環境の差分。
そういったものが積み重なったコードは、まだエージェントに完全に任せるには怖さがある。
AIに任せられるかを判断するとき、重要なのは「AIをどれくらい信用しているか」ではないのかもしれない。
むしろ、
失敗したとき、どれくらい簡単にやり直せるか
の方が大きい。
一番困るのは、コード生成ではない
フルクラウドAI開発を続けていて、現時点で一番困っているのは、コード生成能力ではない。
同期的に実機確認して、その場ですぐにフィードバックできないことだ。
特に難しいのが、ビジュアル表現を作り込むとき。
要件が明確なら、自然言語でもかなり正確に指示できる。
ボタンをこの位置に置いてほしい。
余白を何pxにしてほしい。
この条件ならこの画面を出してほしい。
こうした指示はAIがかなり得意だ。
でも、実際にプロダクトを作っていると、そんなに明確な指示ばかりではない。
「なんか違う」
「もう少し軽い感じにしたい」
「この動きが気持ちよくない」
「もっとゲームっぽくしたい」
「頭の中では、もう少しこういう感じ」
こういった抽象的な状態からスタートすることも多い。
しかも、指示を出している自分自身も、完成形を完全には言語化できていない。
実際に触ってみる。
違和感を感じる。
少し直す。
また触る。
その結果を見て、次の方向を考える。
ビジュアル表現は、こうした試行錯誤の中で作り上げていく。
これを自然言語だけでエージェントに伝え切るのはかなり難しい。
今は、実機で確認して、違和感がある部分のスクリーンショットを撮り、それをAIに送っている。
ただ、当然そこには情報の欠落がある。
どの操作のあとに起きたのか。
どのタイミングで違和感を覚えたのか。
アニメーションのどの部分が気持ち悪いのか。
実際に触ったとき、どう感じたのか。
そうした情報をスクリーンショット一枚で伝えることはできない。
ここが、今のフルクラウドAI開発で最も大きなボトルネックだと感じている。
ローカル開発環境の価値は、コードを書くことではなかった
この体験をして、逆に気づいたことがある。
ローカル開発環境が便利だったのは、コードを書きやすいからだけではない。
フィードバックループが圧倒的に短いからだった。
コードを変更する。
ブラウザを見る。
実際に触る。
違和感を感じる。
DevToolsを見る。
少し直す。
また触る。
このループを、ほぼ無意識に高速で回すことができる。
AIによって「コードを書く」という作業が大幅に自動化されたとしても、このフィードバックループが失われると、開発体験全体としてはまだ完全には置き換わらない。
逆に言えば、フルクラウドAI開発に今足りていないものは、さらに賢いコード生成モデルではないのかもしれない。
人間とAIの間で共有できるコンテキストの帯域
の方が重要になってくる気がしている。
理想は、同じ実行環境を人間とAIが触れること
理想を言えば、AIがクラウド上で開発している環境を、そのままスマホからリアルタイムに操作したい。
AIがコードを書いている。
自分も同じ環境上で成果物を触れる。
違和感があったら、その場で画面を指差す。
「ここ」と言う。
音声で説明する。
操作を録画する。
必要ならスクリーンショットに直接書き込む。
AIはコードだけではなく、自分が今何を操作し、どこで違和感を感じたのかまで理解する。
そこまでいけば、かなりの開発をローカル環境なしで完結できるようになると思う。
今のAI開発環境は、実装能力そのものはかなり高い。
一方で、人間とAIが同じプロダクトを見ながら、一緒に作り込んでいくためのインターフェースはまだ発展途上だ。
エンジニアの仕事はなくなるのか
こういう開発をしていると、当然「エンジニアの仕事はどうなるのか」という話にもつながる。
少なくとも自分の場合、仕事が減ったという感覚はあまりない。
やることの重心が変わった。
コードを書く時間は確実に減った。
一方で、テックリードとしての仕事はむしろ明確になってきた。
プロダクトをどの技術で作るのか。
どの方向へ進めるのか。
何を品質基準とするのか。
どこまでをエージェントに任せるのか。
どのタイミングで確認するのか。
問題があったとき、修正させるのか、捨てて作り直すのか。
そして、最終的なアウトプットの品質責任を誰が負うのか。
この部分は、AIがコードを書いてくれるようになってもなくならない。むしろ重要になっている。
最近は、エージェントにコードを書かせているというより、
エージェントで構成された開発チームをマネジメントしている
という感覚の方が近い。
特にGrok botのように、複数Botをチームとして動かしていると、この感覚はかなり強い。
誰に何をやらせるか。
どこまで自律的に進めさせるか。
誰にレビューさせるか。
問題があれば、別のメンバーに調査させる。
人間の開発チームをマネジメントするときに考えてきたことと、少しずつ似てきている。
自分の役割は、実装者から、技術的な方向性を決め、品質を定義し、エージェントチームを効率的に動かす側へ移っている。
コードを書く能力が不要になる、という話ではない。
むしろ、技術を理解した上で方向性を定め、アウトプットの良し悪しを判断し、その品質に責任を持つ能力の重要性が増している。
これは、これからのテックリードに必要な能力の一つになるのかもしれない。
まだ理想の環境は見つかっていない
いろいろ試しているが、現時点で「これだけ使えばいい」というサービスにはまだ出会えていない。
Google AI Studioは、モックアップをすぐ作るには良かった。
Claude Code on the webは、クラウド上で継続的に開発する体験としてかなり良い。
Cursor Cloud Agentsは、Webで確認できるものに関して非常に強く、ビジュアル品質も高い。
ChatGPTは、クラウド完結の開発環境として見ると物足りないが、企画や設計のアウトプット品質は高く、画像生成まで同じ場所でできるのも強い。
Grok botはまだ使い始めたばかりだが、仮想デスクトップの柔軟性と、複数Botをチームとして動かす体験に可能性を感じている。
ただ、自分が目指しているのは、これらを器用に使い分ける未来ではない。
一つのサービスで、企画から設計、実装、実行、確認、デバッグ、テスト、レビュー、デプロイまで完結する。
人間はローカルに実行環境を持たない。
コードを書くためにPCを開く必要もない。
スマホからクラウド上のエージェントチームに指示を出し、同じ実行環境を触り、成果物をレビューする。
そして、人間は技術的な方向性と品質に責任を持つ。
そんな環境が実現すれば、ソフトウェア開発における「開発環境」という言葉の意味そのものが、かなり変わる気がしている。
まだ、そこには到達していない。
ただ、育休中の肉体的な制約のなかで、赤ちゃんを抱っこしながら、スマホだけで趣味のプロダクトをいくつか作れている。
その時点で、少なくとも以前なら考えられなかったところまでは来ている。
今は、その途中にいる。
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